古井戸

 40年ほど前は、この地方ではどこの家庭でも井戸があった。手動ポンプで汲み上げていた。スイカやトマトを冷たい井戸水で冷やして食べた記憶がある。もちろん学校にも手動ポンプがあった。授業後の掃除には校庭にある井戸で水をバケツに汲んだものであった。

 水道の普及で、井戸は見捨てられてきた。我が家でも井戸は埋めてしまった。多くの家庭でも同様であった。だが、最近井戸を見直す雰囲気が出てきた。春に枯れた井戸を何とかして欲しいとの依頼が「おたすけ」に舞い込むようになった。依頼者は防災用と、庭の打ち水に使いたいとの意向である。

 依頼の1件はお寺さんである。濃尾地震で本堂が倒壊し、修復工事をするために井戸を掘ったとのことである。明治時代の井戸である。もう1件は自分で掘った井戸であるとのこと。庭も凄いが、井戸も立派である。我々は、前の井戸の構造を壊すことなく工事することを考えた。古い井戸であるから、中に何が入っているかわからない。有毒ガスの発生の可能性もある。井戸の中に井戸を掘る方法を選んだ。

 2件とも素晴らしい水が多量に出た。お寺さんは消火ホースで本堂の屋根まで十分届く水量であった。庭の散水と、お墓参りの方に使ってもらうそうである。どちらも飛び入りの依頼である。井戸掘りだけで忙しい日々である。おじさん達は少しでも皆さんに役立とうと考え行動している。

お寺の井戸。しっかり作られている。少ないが湧き水がある。
自作の凝った井戸。自分一人で掘ったそうである。
もの凄い水量。