小牧で悪戦苦闘

 6月29日に屋敷の南側にて井戸掘りを始めたけれど、1メートルほど掘り下げるとその下は石の層で、これ以上は掘れないと伊藤さんに現状を見せる。伊藤さんは「どこなら掘れるのか?」と井戸には執着されていた。「この地層では水圧で掘ることはできない。手掘りで行うには人が入れるだけの広さがなくてはできない」と答える。


屋敷の北側を案内され、「ここでどうか?」と言う。狭いけれど出来ないことはないと引き受けたが、これほど大変な作業になるとは思わなかった。機械が入らないので、人が手で掘るしかなかった。初めは、狭いところだったので掘った土を置く場所にも困った。やはり1メートルほど下は石の層で、まるでコンクリートで固めたように硬く詰っている。これをバールでこじ開けて1個ずつ取り出して、つるべの要領でバケツに載せて外へと放り出す。穴が深くなれば、作業が出来にくくなるので、穴の大きさを広げなくてはならない。穴の中にひとり入っては穴を広げ、石を掻き出し、バケツに入れ、引き上げて放り出す。これを繰り返すが、石の層は固くてビクともしない時もあり、悪戦苦闘の日々が続いた。

7月1日から始めて、途中でお盆休みが会ったけれど、今日まで延べにして22日間、掘っては石を出し、石をバケツで上に上げて、放り出す作業が続いた。お盆過ぎからは穴底に水が溜まりだしたので、今度は水を汲んでバケツに入れ、つるべで上げて流す作業が加わった。水を汲み、バケツで上げて流し、石を掻き出し、バケツに入れて放り出す。繰り返し、繰り返し行った。次第に水が溜まるのが早くなってきた。地上から6メートル、穴の大きさは縦横1.2メートルくらいはある。手掘り井戸はここまでが限度だろう。さらに中心部を掘り、ここに吹上管を置き、管の外側にさらに直径の大きな塩ビ管を置いて保護する。穴の底から大きな石を置き、できる限り溜まる水の量を確保するように工夫をする。さらに、掘り出した石を入れ、最後には上にあった土を入れ戻して作業を終える。吸上管は電動ポンプにつなげればそれで完了である。



 すべての作業を終えるにはまだ3日はかかるだろう。しかし、本当によく出来たと感激する。穴の中には人はひとりしか入れない。道具はバール1本で、手で引っかいて石を取り出し、バケツで上に上げる。こんな原始的な作業を長く続けられたのは、井戸を掘るという執念と根気とチームワークだろう。